日本製の超高精度な対物レンズ

「驚くほど見える望遠鏡」をつくるにあたって、最も重要なのは対物レンズです。スコープテックのラプトル・アトラスに組みこまれているのは、全て日本製の対物レンズです。

最近では、実売10万円以下の望遠鏡セットに日本製の対物レンズが載ることは、極めて珍しくなりました。対物レンズを日本で磨き、組み込んだ場合、中国の2~4倍程度のコストがかかるからです。

日本のマイスター、久保田さんのこだわり

かつて日本製のレンズは、カメラなどに使われ、世界中に輸出されました。しかしその後、中国製の安値に押され、日本の工場は次々と廃業していきました。

そんな中でしぶとく生き残った工場もあります。なぜ生き残れたのか。それらの工場はみな、中国にはまねのできない高い技術を持っていたからです。

その一つが岩手県花巻市にある久保田光学です。スコープテック製品の全ての対物レンズを磨いています。社長の久保田さんはこう言います。

「どんなレンズでも絶対手は抜かない。職人は一度手抜きをすると、適当な精度に落とし込むやりかたを覚えてしまう。うちにはそういう技術は必要ないから。」

こんな話もしていました。

「研磨剤(レンズを磨くのに使う特殊な粉)も日本製。粉の粒子の大きさを2通り指定して、決まった割合で配合してもらう。日本の研磨剤メーカーだから、そんな要求にも応えられる。」

なぜ日本製なのか? それは「驚くほど見えるから」

久保田さんと話すとき、私たちは技術に対する強いこだわりに圧倒されます。

しかし、スコープテックがラプトルやアトラスに日本製の対物レンズを採用しているのは、単に「日本の凄い技術を世の中に伝えたい」からではありません。また、 「日本のモノづくりを支えたい」などという、おこがましい気持ちからでもありません。

一番の理由は、「よく見えるから」です。

久保田光学のレンズを通して見る宇宙は、息をのむほど美しいのです。

最高の素材を生かすための、繊細な組立

久保田さんの対物レンズは、食材にたとえれば「最高級の肉」。その肉を最高の料理に仕上げてくれるのが大一光学の職人さんたちです。

久保田光学と同じく、岩手県花巻市にある大一光学は、国内では数少ない天体望遠鏡の組立工場です。レンズの洗浄、組込、調整、検査という作業工程は、極めてデリケートなものですが、大一光学は、東北人気質でこれを正確にこなします。

鏡筒の内側は乱反射を抑えるため、最適な処理を

大一光学が得意なのはレンズの扱いだけではありません。

像のコントラストを上げるために欠かせない工程として、鏡筒の内面の処理があります。これは、大きく二つの作業にわかれます。

ひとつは、余計な光の進入を防ぐため、遮光環と呼ばれるドーナツ状の部品を、複数個、筒の中に固定する作業。

もうひとつは、鏡筒の中で光が乱反射するのを防ぐため、をつや消し塗料で筒の内側を真っ黒に塗装する作業。

これらの処理は通常、外から見えることはなく、カタログ等に掲載されることもありませんから、お客様にはあまり知られる機会がありません。

そのため、一般に販売されている望遠鏡の中には、遮光環の位置が違っているものや、つや消し塗料の塗りが甘いものが多々あります。ひどいものになると、そもそも遮光環がないものや、つや消し塗料を塗っていないものまであります。

スコープテックは大一光学に、この工程を念入りに、正確に行うよう求めました。「驚くほど見える望遠鏡」には、欠かせない処理だからです。そして大一光学は、実直に、丁寧にこれに応えます。見えないからといって、決して手を抜くことはありません。

進化を続けることで、さらに「驚くほど見える」望遠鏡に

大一光学、花巻支社長の小原さんは言います。

「東北人は、辛抱強いですから。」

辛抱強いだけではありません。小原さんは、私たちの「本格的に見える望遠鏡」を作りたいという気持ちを受け止め、共有したうえで、私たちが要求する以上のアイディアを提案してくれます。

心強いパートナーの存在がなければ、「本格的に見える望遠鏡」を作ることはできません。大一光学のお陰で、スコープテックの望遠鏡は日々、進化を続けています。

低コストで無理なく歪みを取り除く、長焦点の設計

さて、ここまで製造工程に目を向けてきましたが、そもそもの設計にも、「本格的に見える」ための工夫があります。その一番の特徴は、焦点距離が長いこと。屈折式鏡筒の場合、焦点距離が長いと、鏡筒そのものも長くなります。

見え方に違いがなければ、長い鏡筒と短い鏡筒を見たとき、「長いと不便だから」と、短いほうを選びたくなります。

しかし設計上は、同じ口径、同じガラス材料の場合、焦点距離は、長ければ長いほど像の歪み(収差)が少なくなります。それをふまえて、スコープテックの望遠鏡は、使い勝手を損なわないぎりぎりのところまで焦点距離を長くとっています。

シンプルな部品構成

スコープテックは、「本格的に見える」望遠鏡を作るために、光学部品(レンズやプリズム)の構成にもこだわります。心がけているのは、対物レンズから入った光を、できる限り劣化させずに接眼レンズから出すこと。そのために、シンプルな部品構成を心がけています。

これについて詳しくは、コラム:「光学部品(レンズとプリズム)の構成はシンプルが良い」をごらんください。

(スタッフ 中村)